「くりすますというものをやるぞ!」
突然職員室に乱入してきたと思うと、大川平次渦正は開口一番声も高らかにそう叫んだ。
教師陣だけでなく事務員も、当然掃除婦と事務員を兼業した人間も当たり外れなく忙しいこの師走に、文字通り師が走るとすら書くほど忙しい時期に、わざわざ狙いすましたようなタイミングで「学園長の思い付き」である。
当然ながら全員がゲンナリした。
 
一年は組実技担任山田伝蔵はその日の緊急職員会議(含・事務員)の様子を指して、さながら葬儀場のごときローテンションであったと後に語る。
 
(さん)…』
「な、なんですか先生方! なんで一斉に私を見るんですか! 私が教えたこと前提ですか!?」
「でもちゃんだよね?」
「…左様でございますけどね小松田くん、でもこのイベントのことを喋ったのは確か秋が始まったぐらいの頃で、まさか今ごろそんな時期の話をほじくり返されるとは思わないじゃない! 忘れてたよ私だって!」
「秋か…それは忘れても仕方ないが、しかしもう学園長に余計なイベント情報は教えるな。絶対だ」
「勿論です野村先生。誰のためにももう言いません」
「全く余計なことばっかり覚えがいいんだからな学園長は」
「どうします?」
「…もう決まっちゃいましたからね…」
「木や食材の調達は生徒にやらせて、さんを監修に回せばなんとかなりそうですよ」
「私ですか!?」
「仕方ないでしょうが、ちゃんと「くりすます」とやらを知ってるのはあなただけなんですから」
「い、いえそんな…私だってそうそうきちんとしたことは…有名だからこそ細部がうろ覚えで」
「だいたいどんな祭りなんです」
「ええと、そう。南蛮の神様の誕生日を祝うための聖誕祭です。オリジナルアレンジが加えられて、25日の本番よりも前夜祭のほうが盛り上がりますから…祭りは二日に渡りますね…うん、このあたりは省いて本番だけやりましょう。それで先程学園長が仰ったようにモミの木に飾りをつけて、ボーロを焼いて、えー…何だっけ…そうそう、プレゼントの交換をしたりもします」
「なんじゃい、へどもどと頼りないのぉ…」
「そう言わないでください木下先生、あんまり興味なかったんですよ。私のいた時代では恋人同士のための行事みたいになってましたし」
「いなかったんですね、納得ですけど」
「安藤先生、もう一回言ったら私監修下りますよ」
「まあそんなことより、さん。やることや要るものを全部、今からできるだけ詳細に紙に書き起こしてください。プリントにして生徒に通達します。大概のものは作れるでしょう」
「しかしモミの木なんて手に入りますか?」
「そこは臨機応変にその辺の木で対応しましょう」
「…適当すぎませんか…」
「ません!」
「そんじょそこらの男より豪快な言い切りが素晴らしいな。ところでボーロなら確か六年の中在家長次が焼けたはずだったぞ」
「了解、おばちゃんの手が空かないようなら…いや十中八九空かないでしょうね…頼んでみます」
「ねえねえちゃん、この「ふらいどちきん」って何? 食べ物? おいしいの?」
「この神社マンクッキーとは何のまじないですか…」
「さっき贈り物がどうこう言ってましたけどそれは?」
「待て、この要るものの欄にある「老人一人」というのはどういうことだ」
「ああもうっ! 質問は一つにしてくださいよそんな口々に!」
「ならまず「老人一人」の意味を教えろ。生け贄なら許可できんぞ」
「低学年衆が泣きますよそんな血生臭い聖誕祭。
 えーっと聖夜に贈り物を配って回ると言われている「サンタクロース」という架空の人物なんですけど、これがさっきの「プレゼント交換」に掛かって、予め個々の買っておいたものをサンタの仮装した人に預けておいて、宴会の途中とか終わった後とかに無作為に配ってもらうんですよ。これが大所帯…特に子供向けの一般的な流れでしょうね」
「なるほど、誰にどんなものが行くか分からないと」
「そういうことです。ちなみに目当ての人にこれと決めたものをあげたい場合は、交換とは別にして個人的に贈ったり…まあその辺もかなりアバウトですけど。
 ああそうそう、フライドチキンって骨付きの鳥の唐揚げのことね小松田くん」
 
「それにしても老人が一人…」
「全員に、大量の贈り物…」
「しかも聞く限りその日の主役ポジションだな…」
「ええ、非の打ち所なく…」
 
『………。』
 
「あ、そっかあ! 学園長先生にその大仕事押し付けちゃうつもりなんですね!」
「ちょっとこら小松田くん!」
「バカ! 言葉に出すやつがあるか!」
「ほんとに空気読まないな君!」
「しかも声がでかいよ!」
「どこで聞いてるかわからないんですよ!」